安全在庫の役割と計算方法 ~適正在庫を維持するための考え方と実践マニュアル
安全在庫とは需要の変動による欠品を防ぐために、通常の在庫に加えて持つべき在庫を指します。言葉だけ聞くと「万が一に備える最低限の在庫」というイメージがありますが、理論上の安全在庫は出荷数・販売数の変動幅から算出したもので、欠品を防ぐためのバッファの役割を果たします。
よって安全在庫 = 適正在庫ではなく、それを構成するための一部として機能するものと捉えると分かりやすいです。
本記事では欠品を防ぎ、適正な在庫水準を維持するために必要な「安全在庫」を実務ベースでわかりやすく解説していきます。
安全在庫:計算方法
安全在庫 = 安全係数 × 標準偏差 × √(発注リードタイム + 発注間隔)
安全在庫は出荷数や販売数をもとに計算するものではなく、需要の変動幅や欠品許容率を用いて求めます。
- 安全係数:欠品許容率
- 標準偏差:需要(出荷数・販売数)の変動幅
- 発注リードタイム:注文から納品までの日数
- 発注間隔:次の発注までの期間
この計算式を使うことで、欠品リスクを許容範囲内で対応できる必要最低限の在庫数を算出できます。
計算式に平方根を用いる理由
後ほどご説明しますが「標準偏差」とは需要の変動幅です。出荷数のばらつきの増減は互いに打ち消し合う(-1と+1が存在した場合、0になってしまう)ため、平方根を用いて需要の分散を平均化して在庫計算に適した形にしています。
つまり日数に関しても、同様に平方根を用いる必要があります。
期間(日数) 1日、標準偏差が10個なら安全在庫は10個
↓
期間(日数) 9日、標準偏差が10個なら安全在庫は…90個(9倍)にはなりません。
√9 = 3 になるため、答えは「30個」となります。
そのまま掛けてしまうと本来の統計的な性質から外れるため、正確な数値を求めることができません。注意しましょう。
構成要素の解説
【安全係数】
欠品許容率 | 安全係数 |
---|---|
1% | 2.33 |
5% | 1.65 |
10% | 1.29 |
20% | 0.85 |
※小数点第3位以下切り上げ
安全係数とは、欠品許容率を統計的に反映した数値です。標準正規分布の累積分布関数の逆関数の値を求めるもので、数式は複雑ですがExcel関数【 =NORM.S.INV(1-欠品許容率) 】で求めることができます。欠品許容率が低いほど安全係数は大きくなり在庫量も増加するため、一般的には欠品許容率5%(安全係数 1.65)が標準とされています。
【標準偏差】
曜日 | 【商品A】出荷数/個 | 【商品B】出荷数/個 |
---|---|---|
月曜 | 1000 | 800 |
火曜 | 1002 | 1300 |
水曜 | 998 | 950 |
木曜 | 1001 | 1200 |
金曜 | 999 | 750 |
標準偏差 | 1.58 | 242.38 |
※小数点第3位以下切り捨て
標準偏差とは、過去の出荷量・販売量のばらつきを示す指標です。標準偏差が大きいと需要のばらつきが激しく、逆に小さい場合は安定した需要を意味します。こちらも数式が複雑ですが、Excel関数【=STDEV.S(セル範囲指定)】で求めることができます。
データ件数が多いほど精度は上がりますが、突発的な異常値は除外する方が良い場合もあります。
【発注リードタイム・発注間隔】
項目 | 説明 |
---|---|
発注リードタイム | 発注してから商品が届くまでの日数 (例:3日) |
発注間隔 | 定期発注している間隔 (例:1週間ごと = 7日) |
発注リードタイムは納品までの期間、発注間隔は商品を発注する頻度(周期)を指します。これらが長くなるほど、在庫を確保すべき期間が延びるため安全在庫の数量も増えます。
つまり、需要が安定していても供給側のリードタイムや発注頻度が不安定であれば欠品する可能性があるため考慮しなければなりません。
※随時発注できる場合は、発注間隔の値を「0」として設定して下さい。
例を用いた計算
具体的な数値を使って安全在庫を算出してみましょう。
安全在庫 = 安全係数 × 標準偏差 × √(発注リードタイム + 発注間隔)
ケース
- 欠品許容率:5% (安全係数 = 1.65)
- 標準偏差:30個
- 発注リードタイム:3日
- 発注間隔:7日
計算式
安全在庫 = 1.65 × 30個 × √(3日 + 7日)
= 1.65 × 30個 × √10日
≒ 1.65 × 30個 × 3.1623日
≒ 156.53個
このケースでは欠品許容率5%を前提として、需要の変動(標準偏差30個)および発注リードタイムと発注間隔(計10日)を考慮しています。その結果、安全在庫は約157個となります。
これは最低在庫数ではなく”需要の変動に対応するために必要な在庫が157個である”という意味です。これにより欠品リスクを抑え、安定した商品供給を維持できます。
適正在庫の求め方

適正在庫とは、需要を安定的に満たしながらも「在庫コスト」を最小化するために保有するべき望ましい理想的な在庫水準を指します。
適正在庫 = 平均出荷数 × (発注リードタイム + 発注間隔) + 安全在庫
具体例なケース
項目 | 内容 |
---|---|
平均出荷数 | 1日あたりの出荷・販売数 (例:1,000個/日) |
発注リードタイム | 発注してから入荷するまでの日数 (例:3日) |
発注間隔 | 次の発注までのサイクル (例:7日) |
安全在庫 | 需要の急増に備えるバッファ |
- 平均出荷数:1,000個/日
- 発注リードタイム:3日
- 発注間隔:7日
- 安全在庫:300個
計算式:1,000個/日 × ( 3日 + 7日 ) + 300個 = 10,300個
これが常に確保しておきたい適正在庫であり、発注点もこの数量を基準に設定しておくことを推奨します。また、随時発注できる場合は発注間隔を考慮せず(リードタイムのみ)計算を行い、適正在庫を求めましょう。
計算式:1,000個/日 × 3日 + 300個 = 3,300個
安全在庫がもたらすメリット
欠品による販売機会損失の回避
安全在庫の目的は、欠品による販売機会の損失や顧客離れを防ぐ事にあります。また、BtoB取引では部品や原材料の欠品が生産遅延を招き、納期遅れによって取引停止につながるケースもあります。
こうしたリスクを回避するためにも、一定の安全在庫を確保しておくことが重要です。
需要の不確実性に備える
商品の需要は季節要因、トレンド、経済環境の変化、競合商品の動向などにより変動しますが、これまでの出荷データにおける標準偏差から、最低限の安全在庫を設定しておくことで、安定した供給体制を維持できます。
サプライチェーンの変動対策
納品遅延、輸送トラブル、天候不順、物流網の混乱など、発注から納品までのリードタイムにばらつきが生じることがあります。こうした変動に備えて安全在庫を持つことで、遅延が発生した際にも製品の供給を継続できます。特にグローバル化が進み、国際物流や海外サプライヤーを利用する場合には極めて重要な要素となります。
余剰在庫の削減
安全在庫を設定することで「余分な在庫を抱える」と誤解されることもありますが、実際には安全在庫の明確な算出は余剰在庫を防ぐことにつながります。標準偏差やリードタイムに基づいた安全在庫を設定できれば「持ちすぎ」「仕入れすぎ」を防ぎ、在庫効率の向上が期待できます。
安全在庫のデメリット・注意点
正確な計算には手間がかかる
安全在庫は統計的な計算が前提のため手間や労力が伴います。これまでの出荷データや発注リードタイム、発注間隔のデータが必要であり、商品ごとに個別の計算が必要です。特にSKU数が多い場合、全商品に対して同じように管理するのは非現実的です。
欠品を完全に防げるわけではない
安全在庫を設定する最大の目的は欠品の回避ですが、完全に欠品を防げるわけではありません。欠品許容率を5%に設定すれば、理論上は5%の確率で欠品が発生します。つまり、安全在庫はあくまで欠品リスクを軽減するための手段であり、「欠品ゼロ」を完全に保証するものではありません。
定期的な再計算の必要性がある
安全在庫は発注リードタイムや発注間隔の合計値を考慮して計算されています。そのため、仕入先の生産遅延や輸送トラブルなどでリードタイムが変動すれば、安全在庫もそれに応じて再設定しなければなりません。
また、季節性の高い商品などは時期によって出荷量が大きく変わるため定期的な見直しが必要です。このように、安全在庫は一度算出すれば終わりではなく、外部要因の影響を大きく受ける場合は再計算が求められます。
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https://support.cammacs.jp/manual/purchase/auto-ordering/
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