在庫分析の基本と実践 ～データ分析の方法やBIツールまで徹底解説

在庫分析の目的

適正在庫の維持

事業活動においては、必要な時に必要な商品が過不足なく揃っている「適正在庫」の維持が理想とされます。しかし売上の波や季節、仕入先の状況など変動要因が多く、実現は簡単ではありません。そのため、在庫の回転率や需要トレンドを正確に把握するための定量的な分析が欠かせません。

販売機会損失と在庫過多の防止

売れるタイミングで在庫がなければ販売機会を失い、逆に売れる見込みのない在庫を抱えれば保管のコストやリスクが増大します。そこで、在庫分析によって動きのある商品と滞留在庫を把握することで、販売機会の最大化と過剰在庫の抑制の両立が可能になります。

経営戦略への活用

在庫分析は、経営判断や販売戦略を立案する上で有益な情報資源となります。売れ筋が明確になれば、広告やプロモーションを効果的に打ち出せます。また、滞留在庫にはキャンペーンなどの方針を立て、在庫圧縮や売上回復につなげることも可能です。在庫分析は単なる管理業務にとどまらず、マーケティングや事業戦略の意思決定にも役立ちます。

在庫分析を行うメリット

滞留在庫の可視化

在庫の中には、動く見込みがほとんどない滞留在庫が一定数含まれていることも少なくありません。これらは売上や利益に貢献しない資産であり、倉庫スペースの圧迫や保管コストの上昇につながります。定期的な在庫分析によって、こうした滞留在庫を数値で把握して、対応策を検討することが可能です。

欠品リスクの回避

一方で、売れ筋商品の在庫切れによる欠品リスクも企業にとって大きな損失要因となります。在庫分析で回転率や出荷頻度を把握することで、欠品リスクを予測して発注や生産のタイミングを調整できます。特にECやアパレル業界では、欠品が機会損失や顧客離れにつながるため事前対策が欠かせません。

売上・利益の最大化

在庫分析の本質は、在庫の「数」や「量」を単に管理することではなく、「売上」や「利益」を生み出すことにあります。よって、在庫回転率に粗利益率を加味した交差比率などから利益貢献度の高い商品を見極めてリソースを集中させることで、売上効率を高めることができます。

※交差比率については後ほど詳しく解説します。

在庫分析における5つの主要指標

在庫分析を実践的に活用するためには、定量的な「指標」に基づいた分析が不可欠です。ここでは広く使われている5つの代表的な指標について解説します。

指標① ABC分析：在庫の優先度を分析

ABC分析は重要度や取引量の観点から、在庫をA・B・Cの3グループに分類して管理の優先順位を明確にする手法です。

分類の考え方

• Aランク：全体売上の上位約70～80%を占める主力商品群
• Bランク：中間層(約15～25%)の商品群
• Cランク：下位層(約5～10%)の商品群

売上や入出庫の頻度が高い在庫をAランク、それに次ぐものをBランク、滅多に動かないものをCランクとすることで在庫管理のリソースを効果的に配分できます。特にAランクの在庫に対しては、補充の頻度をアップしたり販促を集中させることで全体の利益を大きく高めることが可能です。

指標② 在庫回転率：販売ペースを算出

在庫回転率とは、一定期間内に在庫が何回売れて補充されたか(=回転したか)を示す指標です。この値が高いほど在庫が頻繁に動いていることを意味します。

計算式：売上原価より求める場合

• 在庫回転率 = 期間内の売上原価 ÷ 期間内の平均在庫金額
• 平均在庫金額 = (期首在庫金額 + 期末在庫金額) ÷ 2

※平均在庫金額は棚卸資産のこと

在庫の鮮度やキャッシュフローの観点からも重要であり、特に食品や流行商品のように賞味期限や需要変動の激しい分野では、在庫回転率の最適化が経営成績に直結します。高回転な商品ほど売れ筋であり欠品リスクに注意する必要があります。

指標③ 在庫回転期間：滞留期間の把握

在庫回転期間は「在庫が完売するまでに何日間を要するのか」を示す指標です。商品ごとの動きの速さが日数でわかるだけでなく、キャッシュフローを測る目安になります。

計算式：日数の場合

• 在庫回転期間 = 平均在庫金額 ÷ (売上原価 ÷ 365)
• 平均在庫金額 = (期首在庫金額 + 期末在庫金額) ÷ 2
  

数値が小さいほど在庫の滞留期間が短く、最適な運用がなされていると判断できます。ただし、あまりにも短い場合は欠品のリスクが高まるため、業種や在庫の特性に応じた適正水準の見極めが必要です。また、季節によっても大きく変動するため、月別や商品別で必ずチェックしましょう。

※在庫回転率や在庫回転期間について、詳しくは「在庫回転率とは？計算式や具体例でわかりやすく解説 ～在庫管理のための完全ガイド」をご覧ください。

指標④ 交差比率：利益効率の可視化

交差比率は、在庫の回転率と利益率をかけ合わせて「どれだけ効率よく利益を上げているか」を示す指標です。この数値が高ければ高いほど、在庫を活用してより高い利益を生み出していることを意味します。

計算式

交差比率 = 粗利益率 × 在庫回転率

単なる販売数量や回転の速さだけでなく、利益の貢献度という視点から在庫価値を捉えることができるため、経営判断にも直結する重要な分析軸となります。単純な売上高・回転率では見えない貢献度の高い商品を明確にできます。

指標⑤ デッド在庫・緩動在庫：在庫の整理

デッド在庫は一定期間まったく動きのない不動在庫を指し、緩動在庫は動きはあるものの極めて低頻度な在庫を指す言葉です。これらはキャッシュフローや倉庫スペースを圧迫するため、定期的な洗い出しが必要です。

判定方法

• 在庫回転期間やABC分析を使って、動きが極端に少ない商品をピックアップ
• 入出庫履歴や販売実績から判断

これらの在庫については、廃棄処分も視野に入れて対応を検討します。ただし、資産価値が残っている場合は会計上の償却手続きが求められます。

また、緩動在庫は売れる可能性がゼロではないため、セット品として販売したりセール品に回すなど対応は慎重に行いましょう。

在庫分析で使用する3種類のグラフ

在庫分析においては、数値の可視化が極めて重要です。中でもヒストグラム、Zチャート、流動数曲線は在庫の動きや傾向を視覚的に把握するために度々用いられます。

ヒストグラム

ヒストグラムは、在庫数量や出庫数などの数値データを一定の範囲ごとに区切り、棒グラフで分布状況を可視化する手法です。

在庫分析の現場では、商品ごとの出庫数や在庫数を分析する際に多用されます。特に「どの商品が大きく動いているか」「全体でどの程度ばらつきがあるか」といった傾向を把握するには非常に有用で、ABC分析と組み合わせて活用する場合もあります。

データの偏りや例外的な商品を早期に察知する目的でも用いられ、在庫戦略の見直しや仕入調整の判断材料として役立ちます。

メリット

• データの偏りやばらつきが視覚的にわかりやすい
• 出庫傾向をもとにロケーション管理が改善できる

Zチャート

Zチャートは、売上や出庫数(もしくは在庫数)などの累積値・単月値・移動合計(当月含む過去12ヶ月の累計)を一つのグラフ内に同時に表示する手法です。

グラフの形状がアルファベットの「Z」に見えることからこの名前で呼ばれます。
毎月の出庫数の推移だけでなく前年比を含めて立体的にデータが把握できるのが特徴です。

(A)各月データ

月毎の出庫数、月々の推移を確認できる

(B)累計データ

毎月の出庫数の合計。データは必ず右肩上がりになる

(C)移動合計データ

当月含む過去12ヶ月の合計出庫数。右肩下がりの場合は前年と比較すると減少傾向にある

メリット

• 単月では気づきにくい長期的な傾向が可視化見える
• 戦略的な仕入れ・販促タイミングの判断に最適

流動数曲線

流動数曲線は、主に製造業で用いられ「累積計画数」「累積実績数」「仕掛品在庫」をグラフ化したものです。一定期間における計画生産数と実際の生産数、また仕掛品を在庫数として表示します。計画通りに処理が進んでいるか、あるいは遅延や過剰な処理が発生していないかを一目で把握できます。

※仕掛品とは生産途中でまだ完成していない未完成品を指します。

生産計画とのギャップにより発生する毎月の実績数や仕掛品在庫数から、現場の負荷やボトルネックを定量的に把握するのに役立ちます。

メリット

• 生産部門の進捗可視化、購買計画の立案に有効
• 差異の早期発見により在庫ロスや遅延を防止

在庫分析を支えるツール

在庫管理システム

在庫管理システムは、企業が保有する在庫の状況を一元的に管理して、日々の入出庫や在庫変動をリアルタイムに把握できるツールです。商品ごとの在庫数やロケーション管理はもちろんのこと、入荷予定や出荷指示、棚卸まで行えるほか、出荷頻度や滞留期間といったデータも蓄積されるため在庫分析に必要な情報を蓄積することが可能です。

BIツール

蓄積されたデータを分析・可視化して、そこから洞察を得て意思決定を支援するためのツールです。膨大な在庫データの中から特定の指標や条件に合致する情報を瞬時に抽出して、ユーザーごとにカスタマイズされたダッシュボードで視覚的に確認できます。

例えば、過去3か月間で最も回転率が高かった商品群の傾向をグラフで示したり、在庫金額と売上利益の相関関係を散布図として表示することが可能です。

API連携により在庫管理システムから直接データを自動取得してリアルタイムに反映できるため、最新の情報をもとにスピーディな経営判断が行えます。

キャムマックス × Tableauで、在庫分析をもっとスマートに

「在庫はあるのに売れない」「どの商品が利益を生んでいるのか見えない」そんな悩みを抱える中小企業も少なくありません。

クラウドERP「キャムマックス」は、在庫・販売・購買・生産・財務会計を一元管理できる、中小企業向けに最適化されたERPです。

実店舗・EC・卸といったオムニチャネル取引に対応した在庫管理機能は、発注や出荷のタイミングを逃さず、過剰在庫や欠品のリスクを軽減します。

このキャムマックスの強みを、さらに進化させるのがBIツール「Tableau(タブロー)」との連携です。

ERP × BIで、勘や経験に頼らないデータに基づいた意思決定

キャムマックスに蓄積された在庫データを「Tableau」にAPI連携することで、在庫状況をリアルタイムに可視化して分析ダッシュボードとして活用できます。

さまざまな視点から多角的に在庫分析ができる

• 在庫の過不足を可視化して、発注・購買計画の最適化につなげられる
• キャッシュフロー改善や資産効率向上にも貢献

データ更新が自動反映されるリアルタイムなダッシュボード作成

• キャムマックスで取得した最新データをすぐにTableauで活用可能
• 在庫データ以外にも、売上、仕入、会計などのトランザクションデータも連携

在庫率(現在の在庫量 ÷ 必要在庫量)や在庫推移を日別で可視化

• 在庫率50%以下など、要注意在庫が一目で分かる
• 実在庫と予定在庫を分けて表示、発注残も考慮した在庫推移が確認できる

この他、ヒストグラム、Zチャートなど多様なグラフ作成が可能です。

Tableau Publicでは、在庫分析に関するポートフォリオが多数掲載されています。ご興味のある方はぜひチェックしてみてください。

参考：Tableau Public『在庫分析』