「在庫引当」の基礎と実践 |定義・仕組み・運用の全体像を解説
庫引当とは、受注や生産指示があった際に、倉庫内の在庫や入荷予定の商品を特定の用途に割り当てることを指します。この仕組みにより、企業はすでに他の用途に割り当てられている在庫と、今後の対応に使用可能な在庫とを明確に区別することができます。つまり、「どの在庫が何のために確保されているか」が一目で分かるようになります。
本記事では、在庫引当の基本的な考え方から具体的な仕組みやその重要性、そして運用を成功させるためのポイントまで、体系的に解説します。
在庫引当の定義と基本的な考え方
在庫引当は情報上の処理であり、実際に倉庫から商品が移動するわけではありません。商品は物理的には倉庫に存在したままですが、システム上で「引当済み」としてマークすることで、その在庫の用途を確定します。
【簡単な例】
顧客からある商品を5個注文された時点で、倉庫に10個ある商品のうち5個を”この注文のためにキープ(確保)”します。この時点ではまだ商品は出荷されておらず、倉庫にありますが、他の注文や用途には使えない状態になります。
このように、在庫引当は実際の出荷や使用には至っていないものの、在庫を「指定された用途に使用するもの」として確定させる処理です。適切なタイミングで引当を行うことで、在庫と出荷の整合性を保ち、トラブルを防ぐことができます。
業種ごとの引当タイミング
在庫引当が必要となるタイミングは、業種や業務フローによって異なります。
小売業の場合
- 対象:商品の販売
- 引当タイミング:カート追加時
実店舗ではカゴに入れることで商品を確保できます。しかし、ECサイトや予約商品の場合、引当がなされず注文後に在庫切れが発覚すれば、顧客満足度を大きく損なう可能性があります。
【例】ECサイトで在庫3個の商品に5件の注文が入る → 後から注文した人も注文確定となるため、出荷段階で欠品が発覚してトラブル発生
製造業の場合
- 対象:原材料や部品
- 引当タイミング:生産スケジュール作成時
単一製品のみを生産する場合、事前確保の必要性は低くなります。しかし、多品種少量生産の現場では、原材料や部品を複数製品で使用するケースが多く、事前に確保しておく必要があります。
【例】基板を100台生産する予定だが、ICチップを他製品の生産に使ってしまい在庫不足に → 生産ライン停止・納品遅延
実在庫・引当数・有効在庫の関係性
在庫引当を理解するには、以下の3つの用語を正しく把握することが不可欠です。
項目 | 意味 | 在庫数 |
|---|---|---|
実在庫 | 実際に倉庫にある在庫 | 10個 |
引当数 | 受注などで確保された数量 | 5個 |
有効在庫 | 実在庫から引当数を引いた、新たに使える在庫 | 10-5=5個 |
上記の関係性を式で表すと、次のようになります。
計算式:有効在庫 = 実在庫 - 引当数
【例】実在庫が「10個」、引当数が「5個」であれば、有効在庫は「5個」
この「有効在庫」が、新規の注文や生産などに利用できる在庫になります。また、有効在庫を基準に次のアクション(販売や生産、受注)を決めるため、これらの数値を常に把握・管理することが重要です。
在庫引当の仕組みとロジック
引当の流れ:注文→受注→引当→出荷
小売業(EC含む)を例に、在庫引当の流れを解説します。一般的には以下のようなステップで進みます。
(1) 注文の受付
顧客からの注文情報がシステムに入力されます。
(2) 引当の実行(受注確定)
注文情報と在庫情報を照らし合わせ、実在庫または入荷予定分から該当注文分の数量を確保します。この時点で受注が確定します。
※在庫が不足している場合は「部分引当」として一部だけを確保して、残りは後日の入荷で補うといったケースもあります。
(3) 出荷指示と出庫
引当した在庫は、出荷予定日に向けてピッキング・梱包準備に入ります。ピッキングから出荷までの過程で商品は出庫され、在庫数から差し引かれます。
引当があることで、現場は混乱なく「どの商品を、どの注文に対して出荷すべきか」を明確に把握できます。この「注文→受注 → 引当 → 出荷」という流れにより、正確な在庫管理と納期厳守を実現します。
例:「商品X(初期在庫100個)」の在庫数推移
日付 | 取引内容 | 実在庫 | 引当数 | 有効在庫 | |
|---|---|---|---|---|---|
4/1 | 初期状態 (在庫100) | 100 | 0 | 100 | |
4/3 | 受注A 40個 → 引当 | 100 | 40 | 60 | |
4/5 | 受注B 30個 → 引当 | 100 | 70 | 30 | |
4/6 | 入荷 30個 (発注分) | 130 | 70 | 60 | |
4/7 | 出荷 40個 (受注A分) | 90 | 30 | 60 | |
4/8 | 出荷 40個 (受注B分) | 60 | 0 | 60 |
解説ポイント
- 受注と同時に引当が実施されると、実在庫は変わらないが有効在庫が減少する
- 入荷があると実在庫と有効在庫に加算されるが、未出荷の引当数には影響しない
- 出荷が完了した時点で引当数が減り、実在庫も減る
在庫がどのように変化するかを正確に把握するには、在庫数の推移を時系列で管理して、どのタイミングで受注が入り、どの時点で出荷されたかを明確に記録する必要があります。これは表計算ソフトで管理することも可能ですが、取扱商品が多い企業では「在庫管理システム」の導入により、在庫数・引当数・出荷状況をリアルタイムに可視化できます。
在庫引当の重要性
欠品・納期遅延リスクの回避
商品が倉庫に物理的に存在していたとしても、別の注文で既に確保されていた場合、それを使用することはできません。引当処理が適切に行われていないと、こうした「在庫があるのに使えない」状況に気づけず、二重引当が発生します。
その結果、現場では本来出荷できない商品の出荷作業が進められ、最終的に欠品による納期遅延やクレームが発生することになります。適切な引当処理によって、「いつ・どの注文に・いくつの商品を提供できるか」を明確にすることで、円滑な出荷業務を実現します。
顧客満足度・信頼の向上
顧客が求めているのは「在庫があること」ではなく、「欲しいときに確実に届くこと」です。引当処理を行うことで確実な納期回答ができ、在庫状況も明確になるため、迅速で信頼ある対応が可能になります。
特にBtoB取引では、納期遵守が継続的な取引関係の前提条件となるため、適切な在庫引当が取引継続に大きく影響します。結果として、顧客満足度の向上と長期的な信頼関係の構築につながります。
販売機会の最大化
在庫引当が適切に行われることで、販売機会を最大限に活かすことができます。複数の販売チャネル(実店舗・EC・卸売など)で在庫を共有している場合、引当がリアルタイムに反映されることで、各チャネルで正確な在庫数を把握できます。これにより、販売可能な在庫を確実に売り切り、機会損失を防ぐことができます。さらに、販促キャンペーン前に予想販売数を事前引当しておくことで、キャンペーン期間中の欠品を回避し、販売機会を逃さず売上を最大化できます。
運用のポイント
引当処理を適切に機能させるために重要な、3つのポイントについて解説します。
ポイント① 正確なロケーション管理
在庫引当を適切に行うためには、在庫が「どこに、何が、いくつあるか」という情報を正確に把握しておくことが前提となります。引当が完了していても、実際の現場で在庫が見つからないといった状況があれば、出荷や生産が滞ります。
そのため、倉庫内のロケーション(棚番や保管区画)ごとに在庫を明確に管理して、入出庫のたびに在庫情報を正しく更新することが重要です。ロケーション情報と引当データを連動させることで、ピッキングミスを防ぎ、作業効率と正確性が向上します。
ポイント② 定期的な棚卸の実施
在庫引当が正しく機能するには、システム上の在庫データと実在庫が一致していることが前提です。データと実在庫に差異がある状態では、引当処理を行っても出荷時に在庫が見つからず、納期遅延が発生するリスクが高まります。こうした事態を防ぐには、定期的な棚卸の実施が欠かせません。
全数棚卸だけでなく、重点商品やロスの出やすいカテゴリーに対して定期的に実施する循環棚卸(サイクルカウント)を取り入れることで、業務負荷を抑えつつ在庫精度を維持できます。
また、棚卸で判明した在庫差異は、その都度原因を分析して、再発防止策を講じることが重要です。正確な在庫データが維持されることで、引当処理も本来の効果を発揮します。
ポイント③ 入出庫のタイムリーな記録
出荷処理を終えてから在庫情報を後追いで手入力するような運用では、引当情報との整合性が失われやすく、誤出荷や欠品の原因となります。入出庫の際は、その場でシステムに記録することが基本です。バーコードやハンディターミナルを活用することで迅速な記録が可能になり、ヒューマンエラーも抑制できます。特に、繁忙期や人員の入れ替えが多い現場では、こうしたツールの導入がより重要になります。
在庫管理はもちろん基幹業務をまるごとおまかせ!クラウドERP『キャムマックス』

キャムマックスは、在庫引当を含む在庫管理や、販売管理・購買管理・生産管理・財務会計といった基幹業務を効率化したい企業に最適なソリューションです。複雑化しがちな在庫運用の現場でも、システムを通じてスムーズな連携と判断が可能になります。
受注・出荷・仕入データと連携したスムーズな引当処理
キャムマックスでは、販売管理や購買管理、入出荷データと連動して引当処理を自動で行います。受注時に有効在庫を即座に確認して「引当処理」を行いますこれにより、在庫の整合性が保たれ、欠品や過剰在庫のリスクも軽減します。
多拠点・委託倉庫も含めた一元管理体制
キャムマックスは自社倉庫、営業所、店舗だけでなく、外部委託倉庫(3PL)や委託販売先を含めた在庫の一元管理が可能です。複数拠点に在庫が分散していても、各拠点の在庫数と引当可否が即座に分かります。さらに、ECモール(楽天、Amazonなど)との連携も可能なため、ネット販売での在庫管理も含めて、販売機会の最大化を支援します。
中小企業の実情に即した柔軟な設計と、オムニチャネル対応に強み
キャムマックスは、中小企業でも導入しやすい柔軟な設計が特長です。複雑なカスタマイズを必要とせず、自社の業務フローに合わせて段階的に機能を活用できます。実店舗・EC・卸売など複数の販売チャネルを展開している場合も、一元的な在庫管理と引当処理により、チャネル間での在庫連携がスムーズになります。オムニチャネル展開において必要な「在庫の可視化」と「正確な引当処理」を実現します



