経営を圧迫する“余剰在庫”をどう防ぐ？課題から解決策まで徹底解説

余剰在庫の定義

企業が保有する在庫のうち、適正在庫を大きく上回る在庫を指します。具体的には、以下のような状態が該当します。

• 出荷・販売が一定期間以上ない (例：3ヶ月以上)
• 需要予測に対して保有量が明らかに過剰である
• 販路変更や商品入れ替えにより、売却の見込みがない
  

こうした在庫を保有し続けることは、経営上のリスクを高める要因となります。

滞留在庫との違い

「余剰在庫」と混同されやすい用語に「滞留在庫」があります。両者には以下のような違いがあります。

滞留在庫は一時的な販売停滞や流通の問題で発生することもあり、適切な販促や販路開拓により解消できる余地があります。しかし、余剰在庫は”需要予測の誤り”や”発注ミス”といった構造的な要因によるものが多く、不要な資産として早期処分を行う必要があります。

余剰在庫がもたらすリスク

キャッシュフローの悪化

余剰在庫は、現金化の見込みが立たないまま保有され続けるため、企業のキャッシュフローを圧迫します。特に中小企業にとっては、こうした資金繰りの悪化が深刻な経営リスクとなります。

保管コストの増加

余剰在庫が増えるほど、保管スペースとそれに伴う人件費が増加します。さらに、倉庫が余剰在庫で埋まることで、新たな商品の受け入れが困難になるといった機会損失も生じます。

課税所得の増加

期末在庫が多いと、その分だけ売上原価が減り、結果として課税対象となる所得が増加します。帳簿上は利益が出ていても手元に現金がない状況(黒字倒産)に陥る可能性があります。

※さらに詳しい解説は「在庫評価の基本がこれでわかる！実務に役立つ評価方法と選び方」の記事をご覧下さい。

業務効率の低下

倉庫に余剰在庫が混在すると、必要な商品を探す時間が増え、作業効率が低下します。また、動きの少ない商品も棚卸の対象となるため、確認作業の手間がその都度発生します。

余剰在庫が発生する主な原因

商品価値の低下

市場での競争や時間の経過により、商品の価値が相対的に低下する場合があります。競合から新製品が投入されたり、消費者の嗜好が変化したりすることで、徐々に市場での競争力を失います。

よくあるパターン

• トレンド変化による"型落ち"化 (アパレル・雑貨など)
• 仕様変更・リニューアルによる旧バージョンの陳腐化
• 季節商品・限定商品が売れ残ったままシーズン終了

こうした商品価値の低下に気づかず、従来と同様のボリュームで発注を続けてしまうと、想定していた数量が売れ残り、余剰在庫として積み上がります。

返品の増加

顧客からの返品が多発することも、余剰在庫の一因となります。特に、ECサイトや通販では、サイズ違いやイメージ違いといった理由による返品が日常的に発生します。

よくあるパターン

• サイズや色違いによる返品
• 商品説明と実物とのギャップによる返品
• BtoB取引や委託販売における契約上の返品
• 初期不良・クレーム対応による返品

返品が想定を超えて増加すると余剰在庫はもちろん、不良在庫としても蓄積されます。さらに、販売機会の損失や保管コストの増加にもつながります。

在庫管理の不備

記録上の在庫データ(理論在庫)と実在庫が一致していない場合、実際には在庫があるにもかかわらず追加発注をかけてしまうケースが発生します。

よくあるパターン

• 在庫データと実在庫の不一致 (棚卸未実施・入力ミス)
• 業務の属人化により在庫状況の共有が不十分
• 明確な発注基準がなく、勘や経験に頼った発注

こうした状況が続くと、在庫データの信頼性が失われ、過剰発注を招きやすくなります。結果として必要以上の在庫を抱えることになり、余剰在庫が発生します。特に、システム化が進んでいない中小企業で顕著に見られる傾向です。

余剰在庫を減らすための取り組み

余剰在庫を減らすには、既存の在庫処分はもちろんですが、余剰在庫が発生しにくい仕組みを構築することが重要です。以下では、余剰在庫の発生を抑制するための具体的な取り組みを4つ紹介します。

取り組み① 適正在庫の算出

適正在庫※1とは、需要変動や供給リードタイムの変化に対応しつつ、欠品リスクを最小限に抑えられる在庫量のことを指します。この算出には、過去の販売実績、発注リードタイム、需要の変動幅、安全在庫の水準といった複数の要素を踏まえた分析が求められます。

基本的な計算式は以下の通りです。

適正在庫 = 平均出荷数 × (発注リードタイム + 発注間隔) + 安全在庫

適正在庫を定量的に把握することで、勘や経験に頼った発注を排除でき、過剰な仕入や滞留リスクを抑えられます。ただし、適正在庫を算出する上で「安全在庫※2」をどう設定するかが重要なポイントとなります。

在庫切れを徹底的に防ごうとすれば、それだけ在庫は膨らみやすく余剰在庫が発生します。一方で、設定値を低くしすぎると欠品による機会損失が増加します。このバランスを踏まえた上で、適正在庫の水準を定期的に見直していくことが重要です。

※1　詳しくは「安全在庫の役割と計算方法 ～適正在庫を維持するための考え方と実践マニュアル」の記事をご覧下さい。
※2 「欠品許容率」や「需要の変動幅」などを設定した上で算出します。

取り組み② 需要予測の導入・精度向上

データに基づいた需要予測を導入することで、余剰在庫の発生を抑制できます。また、需要予測の精度を高めるには、過去の販売データだけでなく、市場の変化や消費者の動向、キャンペーンの効果など、多角的な視点を加味した予測が必要です。

具体的な取り組み

• 過去の販売データの整備と、季節要因・傾向の分析
• 広告やSNS施策、展示会などの外部要因の反映
• AIツールやExcel関数を活用した、データに基づく予測

特に、ECサイトや店舗データなどをリアルタイムに活用することで、販売動向の変化に柔軟に対応できるようになります。

※需要予測について、詳しくは「需要予測と在庫管理の基本｜計算式からExcel活用、実践ノウハウまで徹底解説」の記事をご覧下さい。

取り組み③ 商品バリエーションの絞り込み

顧客ニーズに応えるためにサイズ・色・仕様などのバリエーション展開をすると、各商品の販売数量が少なくなります。販売データが不足することで売上予測の精度が下がり、一部の売れ筋商品は欠品しやすくなる一方、動きの鈍い商品は余剰在庫となるリスクが高まります。

具体的な取り組み

• 販売実績に基づき、売上貢献度の低いSKUを把握 → 販売終了や統合を検討
• 初期段階は最小構成で販売 → 実績に応じた追加展開

ただし、バリエーションの絞り込みは、顧客の選択肢を狭めることにもつながるため、営業やマーケティングとの調整が必要です。重要なのは、データに基づいて残すべき商品と整理すべき商品を明確にして、計画的に絞り込むことです。単なる品数削減ではなく、在庫最適化と経営効率を両立させるための戦略的判断が求められます。

取り組み④ 在庫管理システムの導入

余剰在庫を継続的に抑制するには「在庫管理システム」の導入が効果的です。特に、複数拠点で在庫を扱っている企業やSKU数が多い業態では有効です。

主な機能

• リアルタイム管理により、常に最新の在庫状況を把握
• 発注点の設定により、適切なタイミングでの発注が可能
• 一定期間動きのない商品の自動検出
• 複数拠点の在庫を一元管理することで、需要に応じた拠点間移動を実現

より高度な管理を目指す場合は、ERP(基幹業務システム)の導入が推奨されます。ERPは在庫管理に加え、販売管理や生産管理などのデータとも連携できるため、商品ごとの回転率や滞留状況を即時に把握でき、余剰在庫の兆候を早期に発見できます。また、サプライチェーン全体の最適化を図ることも可能です。

余剰在庫の兆候をデータで捉え、早期対応を支援！クラウドERP『キャムマックス』

クラウドERP「キャムマックス」は、在庫の動きを定量的に可視化することで、余剰在庫の兆候を早期に捉え、過剰な在庫の蓄積を未然に防ぎます。在庫の全体像をリアルタイムで把握して、データに基づいた適切な判断を支援します。

在庫の偏りを可視化して、余剰リスクを回避

キャムマックスでは、商品ごとに「在庫回転率」や「回転日数」を一覧で確認できる他、入庫年月をもとに「在庫年齢(滞留期間)」も可視化できます。「どの商品がどれほど長く保有されているのか、どれほどの頻度で在庫が循環しているのか」といった在庫状況を定量的に把握します。これにより、属人化された判断に依存せず、データに基づく余剰在庫の早期対応や、発注・販促の判断が可能になります。

在庫基準に基づく発注最適化

キャムマックスでは、商品ごとに「上限在庫数」や「下限在庫数」を設定できます。在庫が下限を下回った商品は自動的に抽出されるため、発注が必要な商品を効率的に把握できます。また、上限を超える発注を防ぐことで、過剰な仕入による余剰在庫の発生を抑制します。担当者は勘や経験に頼ることなく、定量的な基準に基づいた発注判断が可能です。これにより、在庫の過不足を防ぎ、最適な在庫バランスの維持を支援します。