IoT活用による可視化と省人化の実現で在庫管理の常識を変える!
在庫管理は、事業の収益性に深く関わる重要な業務領域です。在庫が過剰になれば保管コストやキャッシュフローに悪影響を及ぼし、不足すれば販売機会の損失や生産停止のリスクを引き起こします。在庫管理には精度とスピードの両立が求められますが、在庫管理システムを導入していてもリアルタイムでの計測やデータ取得には限界があり、多くの課題が残されています。こうした背景から、近年注目を集めているのが「IoT(Internet of Things)」の活用です。
本記事では、IoTの基本的な仕組みと特長を確認した上で、在庫管理の領域においてIoTが必要とされる背景や、具体的な導入事例について詳しく解説します。
目次
IoTとは何か?
IoTは「モノのインターネット」を意味する言葉で、センサーやデバイス(=モノ)をインターネットに接続して、情報の収集・送信を行う技術を指します。従来は人が目で確認して手動入力していた情報を、モノが自動的に収集することで、リアルタイムでの状態把握や遠隔監視を実現します。
IoTの活用領域は年々広がっており、スマート家電や自動運転車、ヘルスケアから製造業、物流、農業に至るまで多岐にわたります。その中でも「在庫管理」はIoTとの親和性が非常に高く、可視化・自動化・省力化のニーズに適した技術として注目されています。
在庫管理で活用されるソリューション
技術・デバイス | 概要 | 活用シーン |
---|---|---|
重量センサー | 重量を測定して、在庫残量を自動検知 | ネジ・部品など数量での把握が困難な資材の管理や棚卸 |
RFID | ICタグを用いることで、非接触で在庫の一括スキャンが可能 | 棚卸工数の削減、入出庫時の自動記録 |
AIカメラ | 画像解析により在庫や棚状況をデータ化 | 商品棚のリアルタイム監視、盗難・不正持ち出し検知 |
重量センサーやRFID、AIカメラなどのデバイス技術により、在庫の「重量・位置・移動」といった情報のリアルタイム管理を可能にします。
※それぞれのデバイス技術については後ほど詳しく解説します。
IoTの特徴:リアルタイム性と遠隔監視
IoTは物理的な距離と情報取得のハードルを同時に取り払う手段として、在庫管理のあり方そのものを変えつつあります。現場に出向かなくても在庫状況を把握できるため、業務効率と意思決定のスピードが向上します。
① リアルタイム性
IoTデバイスからの情報はリアルタイムで管理システムに送信されるため、常に最新の状態を把握できます。在庫数の変動はもちろん、在庫移動なども自動で検知して可視化します。
② 遠隔監視
情報はインターネットを通じて共有されるため、どこからでも在庫状況を監視できます。現地確認が不要になることで、担当者の負担軽減とスピーディーな対応が可能になります。
これらの点は、バーコードやQRコードのような既存の識別手段とは根本的に異なります。バーコードリーダーは便利な技術ですが、「人が現場に行き、モノを探して、スキャンする」ことでデータ化します。
一方、IoTではモノ自体が状態を検知してデータを送信するため、人が現地に赴く必要がありません。まさに「情報の自動収集と遠隔監視」を同時に成立させる技術と言えます。
IoT × 在庫管理
比較項目 | 従来の在庫管理 | IoTを活用した在庫管理 |
---|---|---|
情報の取得方法 | 人が “見て・数えて・入力” | モノが “測って・送り・知らせる” |
確認方法・場所 | 場所に依存・目視中心 | 遠隔から確認・自動収集 |
IoTを活用した在庫管理の現場では、データの効率的な取得と自動化が重要なポイントです。その実現手段としてセンサーやタグ、カメラといったIoTデバイスが活用されています。
以下では、実際に多くの企業が採用している代表的なソリューションと、その活用方法について紹介します。
重量センサー
重量センサーは、在庫の重量をもとに数量を自動で把握する仕組みです。商品を個別に数えなくても重量の変化から在庫の増減を検知できる点が特徴です。一つずつ数えるのが困難な小型部品や粉体、液体などに有効です。
向いている在庫
- ネジ・ボルトなどの小型金属部品
- 穀物、飼料、砂糖などの原材料 (個数ではなく重量で管理)
- 塗料、溶剤などの液体原料
- 金属シート、鋼材、コイル材など (加工時に切断・分割する資材)
- 粉体 (小麦粉、化学薬品など)
具体的な活用例
- 部品棚の重量変化から在庫減少を検知
- 原料タンクやサイロ内の残量をリアルタイム監視
- 資材切断前後の重量差から使用量を計測
RFID
RFID(Radio Frequency Identification)は、無線通信によりタグ(ICタグ)の情報を一括・非接触で読み取る技術です。バーコードのように一点ずつ読み取る必要がなく、箱に入ったままの商品や所定エリアにある複数商品を一括スキャンできるのが特長です。
また、各商品に取り付けたタグを通過地点ごとに読み取ることで移動履歴を記録できます。これにより、入出庫のトラッキングや配送状況の追跡を可能にします。
※RFIDについて、詳しくは「RFIDとは?仕組みや特徴について解説!在庫管理等の活用例も」の記事をご確認下さい。
向いている在庫
- アパレル製品 (衣類、靴)
- 高級時計、宝飾品 (盗難防止を兼ねた在庫管理)
- 図書館の書籍 (一括貸出・返却処理)
- パレット単位の物流管理
具体的な活用例
- ゲートを通過する商品を一括読み取り
- 倉庫・店舗での棚卸時間を大幅に短縮
- 盗難防止・不正持ち出し検知
- 出荷後の配送状況をリアルタイム追跡
画像認識・AIカメラ
画像認識技術を用いたAIカメラは、棚や作業エリアの映像から在庫数・状態を自動的に判断します。物体の形状・色・配置などを解析することで、柔軟な認識が可能です。静止画像の解析だけでなく「人の動き」や「モノの動線」まで検出できるため、不審者の侵入や持ち出しの監視にも対応できます。
また、商品の配置状況を常時チェックすることで陳列ミスも自動的に検知します。取得した映像データは、購買行動の分析やレイアウト改善といったマーケティングにも応用されています。
向いている在庫
- 食品・飲料 (冷凍 / 冷蔵ショーケース内商品)
- コンビニエンスストア商品
- タグの取り付けが難しい在庫
具体的な活用例
- 商品棚の在庫状況をリアルタイムで可視化
- 棚や平台の欠品を検知して通知
- コンテナやボックスの出入りを記録
- 盗難防止・不正持ち出し検知
- 倉庫内のフリーロケーション
IoT導入による在庫管理オペレーションの進化
人手に依存していた情報収集を仕組みとして置き換えることで、業務フロー全体の精度とスピードが劇的に変わります。以下では、IoTが現場にもたらす具体的なメリットを解説します。
データの自動取得:省人化を実現する棚卸
従来の棚卸業務は、作業者が倉庫や売場を回りながら在庫を一つひとつ確認して、その数量を手入力(またはスキャン)で記録します。正確な在庫数を把握するには欠かせない作業ですが、多大な時間と労力を要するという課題があります。こうした課題を解決する手段としてRFIDが活用されています。
RFIDリーダーを棚や保管エリアにかざすだけで、その範囲内の商品タグを一括で読み取れるため、従来は数時間かかっていた棚卸作業が数分で完了します。定期棚卸の間隔を大幅に短縮でき、従来は月次や年次だった棚卸を日次や週次で実施できるようになります。
遠隔監視の仕組み:在庫量を自動で取得&データ化する技術
IoTによる遠隔監視は、単に離れた場所から在庫数を把握するという意味だけではありません。重要なのは、現地に行かなければ取得できなかった情報が自動取得できる点にあります。従来の在庫確認は「目視・スキャン・手入力」といった作業を伴い、それぞれの工程が人の移動を前提としていました。
このような作業も、IoT技術を活用することで設置したデバイスからデータを自動取得して、システム上で一元管理します。担当者は現場に足を運ばなくても、遠隔地から在庫状況を把握することが可能になります。
業界別:IoT活用事例
【製造業】部品欠品による生産停止リスクを防ぐ
製造業における在庫管理は生産管理と密接に関わっています。資材や部品の供給が滞れば生産ラインが止まり、納期に大きな影響を与えます。こうした課題に対応する手段として、重量センサーを活用した素材・部品の残量監視が導入されています。
例えば、ネジやナットのような大量かつ消耗の早い小物部品については、センサー付きの保管箱を活用することで、重量の変化から残数をリアルタイムに推定できます。
背景と課題
- 多品種・小ロット化により部品や資材の管理が複雑化
- 生産現場の人手不足が進行
IoTの活用例
- 重量センサーを部品棚の下やケースの底に設置して、在庫の減り具合をリアルタイムで把握
- 残量が一定以下になると自動で通知して補充を促す
- 毎日消費されるネジ・ボルト・ワッシャーなど、欠品時の影響が大きい部品から導入するのが効果的
導入効果
- 生産ライン停止のリスクを軽減
- 棚卸の工数を削減
- 部材の消費量が可視化され、品質管理も強化
IoTを導入することで、現場の在庫は「目で見て管理するもの」から「自動で記録・管理される情報」に変わります。重量センサーによる在庫の自動監視により、生産ラインの安定稼働と管理工数の削減を実現できます。
【小売業】在庫の可視化と作業時間の削減
小売業では商品点数が多く入れ替わりも激しいため、正確に・速く・負荷なく管理することが求められます。その中でもIoTの導入が進んでいるのが、RFIDを活用した在庫管理です。従来のバーコードに比べて非接触で複数商品を一括読み取りできるため、棚卸や検品のスピードを大幅に向上させると同時に、無人レジなど店舗運営の自動化にも応用されています。
また、AIカメラを組み合わせることで、棚の陳列状況をリアルタイムで監視して、欠品や補充タイミングを自動検知することも可能です。
背景と課題
- 品数が多く、在庫管理や棚卸に多大な時間と工数が必要
- 出荷ミスや誤発注が売上ロスに直結する
- レジ業務に人手が割かれ、品出しや売場整理、接客への人員が不足
IoTの活用例
- RFIDにより一括棚卸・検品を実現
- AIカメラで棚の商品陳列状況を監視して、欠品を自動検知
- 各店舗の在庫状況と商品の動きをシステムで一元管理
導入効果
- 棚卸や検品にかかる作業時間の削減
- 顧客動線分析による棚割の最適化
RFIDとAIカメラの組み合わせにより在庫の可視化が自動化され、補充・発注・棚卸といった作業全体の精度とスピードが向上します。現在は、これらの技術を導入した無人店舗の実証実験も行われています。
【食品製造業】把握しにくい食材・調味料の在庫を可視化
食品業界においては、在庫管理はもちろん鮮度管理が重要です。特に原材料となる生鮮品は消費期限が短く、在庫の過不足がダイレクトに廃棄ロスや欠品リスクにつながるため、精度とタイミングが極めて重要です。
ここで効果を発揮するのが、重量センサーによるモニタリングです。液体調味料やペースト状の原料、肉などの生鮮食材など、個数ではなく重量で管理する食材を自動計測することで、在庫量を管理できます。
背景と課題
- 一部の原材料や調味料は残量の把握が困難
- 不正確な在庫把握による廃棄や過剰発注の発生
IoTの活用例
- 調味料や原材料の残量を常時監視
- 残量が一定以下になると発注指示
導入効果
- 消費量と補充タイミングが可視化されたことで廃棄量を抑制
- 在庫管理にかかる人手と時間を大幅に削減
- 安定した供給体制の実現
これにより、食材の廃棄ロスを抑えつつ安定した生産体制を維持できます。まずは使用頻度の高い品目から導入・検討されることをおすすめします。
【施設・宿泊業】アメニティ欠品を防ぐ自動監視
ホテルなどの宿泊施設では、利用者向けのアメニティや備品の在庫がサービス品質に直結します。タオル、歯ブラシ、清掃用品、リネン類といった消耗品は日々の消費量も多いため、管理が後手に回ると補充漏れや顧客からのクレームにつながります。こうした現場においても、重量センサーによる自動監視が有効です。
例えば、備品庫(バックヤード)の棚に重量センサーを設置して、備品の消費量を常時把握することで欠品を防ぐことが可能です。
背景と課題
- 多品目の消耗品管理に伴う負担
- 清掃や補充作業の属人化
- 在庫切れが顧客満足度の低下に直結
IoTの活用例
- 備品庫に重量センサーを設置して在庫(アメニティなど)の減少を自動検知
- 残量が一定値を下回ると補充指示を自動送信
導入効果
- アメニティの欠品防止による顧客満足度の向上
- 在庫確認の手間を削減、清掃スタッフの業務を効率化
これにより、清掃スタッフは在庫確認に時間を割くことなく業務に集中できます。また、複数施設を管理する本部側も各拠点の在庫状況を一元管理できるため、効率的な発注や在庫配分が可能になります。
IoTとERPの組み合わせれば在庫管理以外の業務も効率化
IoTの活用は、在庫管理における現場依存から脱却する手段として定着しつつあります。センサーや画像認識技術を活用すれば、作業負荷を抑えながら、在庫情報をリアルタイムで可視化・共有できる仕組みが構築できます。人手不足、属人化といった慢性的な課題に対してIoTは有効な解決策と言えるでしょう。
しかし、現実的にはIoTツールだけで業務全体を運営できる企業は限られています。また、IoTはあくまで「現場の情報収集を効率化する技術」であり、集めたデータをどう活かすかは別の仕組みに委ねられます。
例えば、その“データを活用するにはERPなどの基幹システムを連携させます。そうすることで在庫管理以外にも販売管理や購買管理、生産計画、会計処理までを一気通貫でつなげることができます。このように、IoTとERPの組み合わせは「現場の見える化」から「経営判断の迅速化」へとつながります。
キャムマックスならIoTとERPの融合を実現できる

キャムマックスは、RFIDによる在庫管理に標準対応しているERPです。現場で取得した入出庫データを自動的にシステムに反映できるため、手作業による入力ミスを防ぎながら正確な在庫数を維持できます。さらに、販売管理・購買管理・生産管理・財務会計までを一元管理できるため、IoTで収集したデータを企業全体の生産性向上へとつなげられます。