なぜ在庫は利益を圧迫するのか?在庫コストの仕組みと削減・改善策
『在庫コスト』とは、企業が商品や部品などの在庫を保有・維持・管理することにより発生するコストの総称です。これは仕入原価とは異なり、在庫を保管しているだけで発生する”間接的なコスト”を指します。
在庫は販売機会を確保するために必要不可欠な資産ですが、過剰または管理体制の不備によっては利益圧迫やキャッシュフローの悪化につながります。そのため、在庫コストを把握して最適化できるかが企業にとって重要な経営課題の一つです。
本記事では在庫コストの正体と具体的な削減方法について解説していきます。
在庫コストの定義
種類 | 内容例 |
---|---|
保管費 | 倉庫の賃料、光熱費、保管設備の減価償却など |
人件費 | ピッキング、棚卸、在庫管理担当者の作業工数 |
設備費 | 棚、フォークリフト、空調などの設備維持費 |
在庫金利 | 在庫にかけた資金に対する機会損失 |
棚卸評価損 | 商品の価値減少(劣化、賞味期限切れ、陳腐化など) |
価格補償費 | 値下げや返品補填にかかる費用 |
返品費用 | 顧客や取引先からの返品対応コスト(再検品・再保管・廃棄など) |
※人件費、設備費、管理システムにかかるランニングコストについて、正確には「在庫管理コスト」となります。本記事では包括的に「在庫コスト」という表現を用いて解説します。
なぜ在庫コストの把握が重要なのか
在庫コストの把握は、以下の3つの観点で企業経営に直接影響を及ぼします。
資金繰りへの影響
在庫とは、現金を“商品という形”で固定化した状態です。売れるまで現金化されないため、過剰な在庫はいわば「債権の滞留 = キャッシュフローの悪化」を引き起こします。
利益率への影響
在庫が多すぎれば、保管費・人件費・評価損などの間接コストが膨らみます。これらは販売価格には直接反映されず、利益を圧迫する隠れコストとなります。
経営判断・最適化への影響
在庫情報が正確でなければ、本来不要な仕入れによる過剰在庫や在庫不足による欠品・納期遅延が発生しやすくなり、全体の最適化の妨げになります。
在庫コストの内訳
① 保管費
在庫を物理的に保有するためにかかるコストです。倉庫の賃料、光熱費、そして棚やパレットなどの保管設備にかかるコストなどが含まれます。また外部委託倉庫(3PL:サードパーティー・ロジスティクス)を利用している場合は、在庫量に応じて料金が変動する場合が一般的です。
保管費は在庫が多ければ多いほど膨らむため、過剰在庫が企業にとって大きな負担となるのはこの保管費が背景にあるためです。
保管費が高騰する主な要因
- 在庫回転率の低下
- 季節品・不良在庫の滞留
- 多品種小ロットによるスペースの非効率化
② 人件費
在庫の入出荷、棚卸、ピッキング作業、データ入力といった業務には人件費が発生します。特に在庫管理が手作業・Excel中心で、ヒューマンエラーが発生しやすい環境では生産性がさらに下がる傾向にあります。こうした事から、人件費は在庫コストの中でも特に間接的な負担として意識すべき項目です。
具体的な業務
- 入庫・出庫作業(ピッキング、検品)
- 棚卸作業
- 台帳・システムへの記録・修正
- 発注や補充などの在庫調整
③ 設備費
在庫を効率よく管理・保管するためには、一定の設備投資が不可欠です。これらの設備には導入コストだけでなく、日々の維持費などのランニングコストも含まれます。また、設備を増やせばスペースの確保も必要になり、保管費との相乗効果でコストが増加するという側面もあります。
設備の一例
- フォークリフト、台車、パレット、ラック、棚など
- 空調設備(食品・薬品などを取り扱う場合)
- 電気・照明器具、センサー機器など
- 防犯・監視カメラなどの保全設備
④ 在庫金利
在庫金利とは、在庫を保有することによって発生する資金コストを金利に置き換えた理論上の指標です。実際に支払う利息ではなく、管理コストや仕入れのための借入利息などを金利換算した指標です。
この在庫金利は帳簿上には表れにくいため、意識的に評価する必要があります。
計算式
1,000万円分の在庫を保有しており、管理に年間50万円かかった場合
在庫金利 = (50万円 ÷ 1,000万円) × 100 = 5%
⑤ 棚卸評価損
仕入れた商品の価値が経年・市場変動・品質劣化などで減少して、帳簿上の価値を減額しなければならなくなった時に生じる損失です。これらの評価損は利益を直接押し下げる要因となるため、在庫の状態や回転率を日頃から意識することが重要です。
棚卸評価損が発生するケース
- アパレルや食品など流行や賞味期限に左右される商品
- 長期保管による汚れ・破損
- モデルチェンジによる旧型製品の価値低下
⑥ 価格補償費
メーカーや卸売業者が販売先に商品を小売店に納めたあと、市場価格が下落した場合の差額補填として発生するコストです。この補償費は在庫の回転が鈍化したり、市場動向の変化に対応しきれず価格競争に巻き込まれた場合に発生します。
つまり、売れ残った在庫を処分するために“後から支払う見えないコスト”として、利益を圧迫する要因となります。
具体的な例
卸価格:600円 → 小売希望価格:800円 → 実売価格は割引により700円
小売業者の利益を確保するために卸側が100円を補償
⑦ 返品費用
商品が返品された際には、その処理のためにコストが発生します。場合によっては返品された商品が販売不可能となるため、廃棄処理や在庫評価の見直しが必要になるケースもあります。
また、返品率が高い場合には在庫確保(予備在庫)が前提となるため、間接的に保管費や設備費の負担が増す原因になります。
返品費用の主な内訳
- 返品に要した輸送費
- 検品・再入庫作業の人件費
- 再販不可商品の廃棄・処分コスト
- 返金処理に伴う経理・作業コスト
数値として可視化されない部分にこそ改善ポイントがある
在庫コストは可視化されたものだけで判断してしまうと、改善ポイントを見落とす可能性があります。可視化されないコストやリスクこそ、利益をじわじわと圧迫する要因であることを意識しましょう。
例えば、保管費は主に倉庫の賃料となりますが、裏を返せば必要以上に在庫を持ちすぎていたり在庫回転率の悪さが要因と言えます。人件費においても、作業ロスや非効率なアナログな管理により圧迫していると考えられます。
数値やデータによりボトルネックを洗い出し、根本的な原因を追求することが在庫コストの削減に繋がります。
在庫コストの削減が難しい5つの理由
適正な在庫量が見えない
在庫コストの削減において最も基本的な考え方は、適正在庫を保つことです。しかし、需要変動や予測の誤差、季節性、取引先の急な注文などにより、在庫の動きは常に変化しています。そのため「何をどれだけ持つべきか」という判断を誤ると、すぐに過剰在庫や欠品を招いてしまいます。
現場が属人化している
在庫管理の現場では、一部のベテラン社員が感覚や経験則で運用しているケースが多く見られます。これは一見効率的に見えますが、属人化された現場では在庫コストの改善に向けた動きが組織的に共有されにくく業務の標準化が難しくなります。
アナログな管理手法が残っている
紙の在庫台帳、Excelによる手入力、発注依頼を電話・FAX・メールでやり取りしているなど、従来のアナログな在庫管理ではリアルタイムの情報更新が難しく、在庫の正確な数や状態を即座に把握することができません。作業負担が増すだけでなく、ヒューマンエラーを誘発します。
不十分な社内連携・部門間連携
在庫管理は単なる倉庫内の作業だけではなく、営業・購買・生産といった複数の部門にまたがる業務です。社内で情報がスムーズに共有されていなければ、無駄な発注や過剰在庫を招く原因になります。全社的な在庫コストの可視化ができていなければ、部門ごとの部分最適化に留まってしまい十分なコスト削減に繋がりません。
システム導入のハードルが高い
在庫コストの削減には、在庫管理システムやERPの導入による在庫の可視化やリアルタイムの情報更新が必要不可欠です。しかし、システム導入には初期・月額コストがかかるだけでなく、システムの仕様に合わせた管理手順の変更や、それに伴う現場スタッフのトレーニングや理解に時間がかかり導入ハードルが高くなる傾向にあります。
在庫コストを削減する方法
在庫コストの削減は単なる在庫削減とは異なり、業務フロー全体を見直して仕組みを最適化することによって初めて実現されます。そのためには、適正在庫の維持や情報のデジタル化、外部リソースの活用などが有効です。
方法① 在庫管理システムの導入
在庫管理システムの導入により、在庫情報を正確に把握できるようになります。また、業務が属人化せず、誰でも同じ水準で運用できる体制の構築が可能です。
- リアルタイムでの在庫把握 (数量・ロケーション・入出庫管理)
- 在庫精度の向上 (バーコード/RFIDなどで入力ミス防止)
- 発注点の設定・アラート通知 (欠品・過剰在庫の防止)
さらに、バックオフィス業務を一元管理できるERPであれば、販売・購買とデータと連動した在庫管理を実現できます。こうした在庫の可視化やリアルタイム性が向上することで、現場はもちろん、組織全体で在庫情報を閲覧・共有できます。
方法② 棚卸と評価方法の見直し
棚卸を見直すことで、実在庫と帳簿上のデータ(理論在庫)がより正確性の高いものになります。具体的には、実地棚卸の頻度を決算時期にだけ行うのではなく、四半期ごとに行ったり、評価方法を改めることで、損失を早期に把握することが可能です。
- 定期棚卸の実施(毎月・四半期ごと)
- 棚卸資産の見直し(低価法の採用・損失を早期に把握)
- 在庫回転率や在庫回転日数のモニタリング
定期的な棚卸やそれに伴う資産の算出、在庫回転率のモニタリングにはシステム化が必須と言えます。
方法③3PLの活用
3PLを活用することで自社で抱えていた固定的な人件費や設備費を保管料や業務委託料などの変動費に転換できるため、需要に応じた柔軟な対応が可能になります。
- 倉庫運営の固定費(人件費・設備費)の削減と標準化
- 保管・入出荷・棚卸までアウトソージング
特に、EC運営などでは3PLを活用することで、自社は販売戦略や商品企画といったコア業務に注力できる体制を構築できます。アウトソーシングはコスト削減の手段であると同時に、組織全体の役割分担や業務構造を見直すための手段としても有効です。
クラウドERP『キャムマックス』で在庫コストを削減!ムダのない在庫管理を実現

「キャムマックス」は、中小企業のために設計されたクラウド型ERPシステムです。特に在庫管理機能においては、リアルタイムでの在庫可視化や拠点間の在庫共有、発注点アラート機能などを通じて「在庫の持ちすぎ」といったムダなコストの削減を実現します。さらに、「欠品」「棚卸ミス」などを防ぐことも可能になります。
複数拠点の在庫情報を一元管理
Excelや紙での管理では難しかったリアルタイムの在庫状況をシステム上で可視化します。在庫を保管している倉庫や、在庫移動の履歴なども即時に確認できるため、補充や移動の判断もスムーズに行え、過剰在庫の抑制にも繋がります。
販売・購買システムと連動した在庫管理
受注データと在庫管理機能が連動しているため、在庫の自動引き当てが可能です。これにより、ヒューマンエラーや処理の遅れによる機会損失を防ぎます。また、販売データから売れ筋商品や滞留在庫の分析もできるため在庫回転率が向上します。
3PLとのスムーズな連携
倉庫管理システム(WMS)とのデータ連携にも対応しており、入出庫データをキャムマックスに取り込むことで自社倉庫と同じように外部倉庫も一元的に管理します。連携機能により拠点をまたいだ在庫運用が可能です。
アラート通知で発注業務を標準化
在庫ごとに発注点を設定できるため、必要なタイミングでアラート通知を行い、見落としがちな欠品を防ぎます。これにより発注作業の属人化を防ぎ、欠品や過剰在庫のリスクを軽減します。適正在庫を維持することで倉庫内のスペースも最適化され、保管・管理コストを削減します。
また、スマートフォンやバーコードリーダーによるモバイルピッキング機能にも対応しているため、導入コストを抑えつつ業務効率を向上させることが可能です。
