売上原価とは?基本の計算式から業種ごとの違い、ERP活用法まで徹底解説
売上原価とは、企業が商品や製品を販売可能な状態にするまでに要したコストの総額を指します。損益計算書(P/L)では売上高のすぐ下に記載され、売上高から売上原価を差し引くことで「粗利(売上総利益)」が算出されます。
重要なのは、この売上原価には当期に販売された分だけが含まれるという点です。
小売業や卸売業の場合は、当期に仕入れた商品が「売上原価」の中心となります。また、製造業では材料費や作業員の人件費などの直接費に加え、工場の光熱費や減価償却費などの間接費も含めた「製造原価」をもとに計算します。
いずれの場合も期末に売れ残った商品や、仕掛品(製造途中の製品)の原価は売上原価に含めず棚卸資産として貸借対照表に計上されます。
売上原価の基本
会計上は、次のような式で表されます。
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期仕入高 - 期末商品棚卸高
期首商品棚卸高:期首時点で残っていた在庫の原価
当期仕入高:当期中に仕入れた商品
期末商品棚卸高:期末時点で残っている在庫の原価
この計算によって実際に販売された分のコストが売上原価として計上されます。計算式については後ほど詳しく解説します。
製造原価との違い
製造業では売上原価とは別に「製造原価」があります。これらは混同されやすいですが、範囲とタイミングが異なります。
- 製造原価
製品を作るために発生したコスト全般(材料費、労務費、製造経費など)であり、期首・期末の仕掛品を調整した上で、当期に完成した製品の原価として確定します。
- 売上原価
当期に販売された分の製造原価。
つまり製造原価は「製造にかかったコスト」であり、売上原価は「売れた分のコスト」です。例えば100個作って40個しか売れなかった場合、製造原価は100個分で計上しますが、売上原価には40個分だけが反映されます。
売上原価を算出する際は、製造原価から期末商品棚卸高(この場合は売れ残った60個分)を差し引くことで「当期の販売数 = 売上原価」を確定します。
※製造原価について詳しくは「製造原価とは?売上原価との違いや計算方法、コスト最適化のポイントまで徹底解説」の記事をご覧下さい。
粗利との関係
粗利(売上総利益)は、売上高から売上原価を引いた金額です。商品・サービスの利益率を示す重要な指標であり、損益計算書の上部に明記されます。
粗利 = 売上高 - 売上原価
企業が商品をどれだけ効率的に仕入れて販売につなげたのかを示す指標です。
また、「粗利率(粗利 ÷ 売上高)」の適正水準は業種や市場環境によって異なります。この指標も価格戦略やコスト削減策を検討する際の判断材料として欠かせない存在です。
売上原価が重要な理由
理由① 利益の源泉を左右する
売上原価が高くなれば粗利は減り、利益が圧迫されます。逆に原価を抑えることで利益率が向上します。
理由② 価格戦略の基準になる
適切な価格設定を行うためには正確な原価把握が必要です。原価を十分に把握せずに価格を決めてしまうと、赤字商品を作り出すリスクがあります。
理由③ 在庫の最適化に直結する
売上原価の計算には棚卸資産の正確な把握が不可欠です。結果として、在庫の最適化や回転率の改善につながります。
理由④ コスト変動の兆候を把握できる
売上原価の推移を分析することで、仕入価格の変動や生産効率の悪化を早期に察知できます。
売上原価の内訳
小売業・卸売業の場合
- 仕入れた商品の購入代金
- 仕入に伴う運搬費
- 輸入時の関税や通関手数料
※小売・卸売業においては、接客や販売に従事するスタッフの人件費は「販管費(販売費及び一般管理費)」に含まれるため、売上原価には含めません。
製造業の場合
- 材料費(原材料、部品、副資材など)
- 労務費(作業員の人件費)
- 製造経費(水道光熱費、減価償却費、修繕費など)
- 外注加工費(部品製造や一部工程の外部委託費)
※製造業では上記の製造原価を集計した上で、販売分だけを売上原価として計上します。
販管費について
売上原価と販管費の違いはコストが発生するタイミングです。
- 売上原価:商品やサービスを作る、または仕入れるためのコスト
- 販管費:販売や管理業務にかかるコスト(広告宣伝費、営業人件費、販売後の配送費など)
また、人件費についても業種や部門によって扱いが異なります。製造業では作業員の給与は製品を生産するために必要なものであり売上原価に含まれますが、営業部門や販売スタッフの給与は販管費として計上されます。
分類を誤れば粗利率や原価率といった経営判断に必要な指標が正確に計算できず、価格設定やコスト管理の判断を誤る危険があるため注意が必要です。
売上原価の計算方法
売上原価は次の計算式で求められます。
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期仕入高 - 期末商品棚卸高
計算例:小売業の場合
期首商品棚卸高:100,000円
当期仕入高:500,000円
期末商品棚卸高:150,000円
売上原価 = 100,000 + 500,000 − 150,000
= 450,000円
売上高が800,000円の場合:
粗利 = 800,000 − 450,000 = 350,000円
粗利率 = 350,000 ÷ 800,000 = 43.75%
三分法について
上記の計算式は、簿記でよく使われる「三分法」を用いており、小売業や卸売業などで広く使われる記帳方法です。
期中(=当期)は「仕入」「売上」の2つの勘定科目で取引を記録して、期末にのみ「繰越商品」を用いて棚卸調整を行います。
日々の記帳がシンプルなため、小規模事業や商品点数が多い小売・卸売業に向いています。一方で、期末の棚卸を行わないと売上原価が確定しないため、日常的な原価の把握には向いていません。しかし日々の仕訳については仕入と売上を記録すれば、あとは決算期の処理によって売上原価を計算できる」というシンプルさから広く利用されています。
製造業の場合
製造業の場合は、当期仕入高の代わりに当期製造原価を求めた上で売上原価を算出します。
当期製造原価 = 材料費 + 労務費 + 製造経費 + 期首仕掛品 - 期末仕掛品
売上原価 = 期首製品棚卸高 + 当期製造原価 - 期末製品棚卸高
当期製造原価は製造費に期首の仕掛品を加え、期末に残った仕掛品を控除して算出します。この当期製造原価をもとに、製品在庫の増減を反映させて売上原価を確定します。
期末棚卸高の算出方法:棚卸の在庫評価について
期末棚卸高を算出するには「棚卸資産」を確定する必要があります。
棚卸資産の評価方法には、大きく分けて「原価法」と「低価法」の2種類があり、どちらを選ぶかによって算出される金額は異なります。
① 原価法
実際の仕入原価を基準にして評価を行う方法です。同じ商品や資材であっても時期によって価格が異なる場合があるため、どの仕入価格を基準にするかによって在庫の評価額が変わります。
- 最終仕入原価法:最後に仕入れた商品の単価を基準にして在庫を評価
- 個別法:在庫別に仕入単価やロットを関連づけ、それぞれの仕入価格を評価に使用
- 先入先出法:先に仕入れたものから出庫されると仮定して在庫を評価
- 総平均法:期首在庫と期中に仕入れた商品の合計額を合計数量で割り平均単価を算出して、その単価から在庫を評価
- 移動平均法:仕入ごとに平均単価を更新して、その単価で在庫を評価
- 売価還元法:販売価格から逆算して原価を求める方式で、販売価格に原価率をかけて在庫を評価
② 低価法
低価法は期末時点の市場価格と帳簿上の原価を比較して、低い方の金額を在庫評価額として採用する方法です。
例えば、仕入時の原価1,000円の商品が期末時点で800円に値下がりしていた場合、低価法では800円で在庫評価を行います。
この方法を用いることで財務諸表をより実態に近づけることができます。ただし、低価法を適用すると期末在庫の評価額が下がるため利益も減少することになります。
※在庫の評価方法について詳しくは「棚卸の正しい進め方|精度を上げるための準備・手順・評価方法」の記事をご覧下さい。
業種ごとの売上原価の捉え方
小売業
小売業において売上原価は、仕入や在庫状況を映し出す重要な指標です。仕入価格が高くなれば粗利は縮小し、仕入価格を改善できれば利益率は大きく向上します。また、期末に残った在庫は保管コストの増加や廃棄ロス、値下げ販売による粗利低下を招く可能性があるため、価格設定やセール戦略も売上原価とのバランスを踏まえて設計する必要があります。小売業において売上原価を正確に把握することは、在庫回転率の改善や仕入計画の見直しに欠かせない要素となります。
製造業
製造業において売上原価は、生産業務の効率やコスト構造を映し出す重要な指標です。原材料の仕入価格や使用量、業務の生産性、工場設備の稼働効率など、あらゆるコスト要因が売上原価に反映されます。売上原価を分析することで不良品や手戻りの多さ、間接費の増加といった製造上の課題を早期に発見できます。製造業では売上原価の改善が生産性向上につながり、結果として市場での価格競争力を高めることになります。
飲食業
飲食業において売上原価は、食材費など料理の提供に直接関わるコストを指します。食材の仕入価格の変動や廃棄ロスは、そのまま利益に直結します。原価を正しく把握できていないと販売価格と実態がかみ合わず、利益率が大きく低下する恐れがあります。売上原価を安定的に抑えるためには仕入先の見直しや仕入条件の交渉に加え、メニュー構成やレシピの最適化、廃棄や仕込み量の適正化といった取り組みが欠かせません。
サービス業
サービス業において売上原価は、サービスの質を左右する重要な指標です。ホテルであれば客室清掃などの外注費、美容院であればカラー剤やパーマ液などの薬剤や消耗品が売上原価となります。こうしたコストの水準は顧客満足度やリピート率に直結する一方で、過剰になれば利益を圧迫します。そのため、サービスの品質を維持しながら無駄を省くバランスが求められます。
建設業
建設業では「工事原価」と呼ばれ、プロジェクト単位(工事単位)で管理されます。工事にかかる材料費、労務費、外注費が主な構成要素であり、工期の延長や設計変更が工事原価の増加につながるケースも少なくありません。見積段階での精度や進行中のコスト管理が甘いと赤字プロジェクトを生みやすくなるため、精緻な施工計画が利益確保に不可欠です。
棚卸から仕訳、原価管理までおまかせ!クラウドERP『キャムマックス』
売上原価を正しく把握することは、企業の利益を守る上で欠かせない要素です。
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面倒な仕訳作業を大幅に減らす自動仕訳機能
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詳しくは以下ページをご確認下さい。
https://support.cammacs.jp/manual/finance/journal/
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詳しくは以下のページをご覧下さい。
この記事を書いた人
下川 貴一朗
証券会社、外資・内資系コンサルティングファーム、プライベート・エクイティ・ファンドを経て、2020年10月より取締役CFOとして参画。 マーケティング・営業活動強化のため新たにマーケティング部門を設立し、自ら責任者として精力的に活動している。