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在庫が増えると利益が増える理由とは? 会計上の仕組みと過剰在庫のデメリット
在庫・倉庫管理

在庫が増えると利益が増える理由とは? 会計上の仕組みと過剰在庫のデメリット

「在庫が増えると利益が増える」と聞いて不思議に思ったことはありませんか?これは会計上の処理ルールに基づいたもので、企業の財務諸表、特に「貸借対照表(B/S)」と「損益計算書(P/L)」の関係を理解することで、その仕組みが見えてきます。
本記事では、在庫が企業の財務諸表上どのように扱われ、決算期に在庫が増えるとどう利益が変動するのかを解説します。

なぜ「在庫が増えると利益が増える」のか?

貸借対照表では、在庫は棚卸資産であり「流動資産」として区分されます。流動資産とは、一年以内に現金化される見込みのある資産のことで、在庫は販売されることで現金化されるため、このカテゴリに含まれます。ここで重要なのは、在庫は企業にとって「将来売上を生み出す価値を持つ」とみなされている点です。
本来なら、仕入や生産にかかったコストは「売上原価」として利益を押し下げますが、その商品を在庫として保有している間は”価値が残っている”と判断され、資産として計上されます。

仕入・生産コストの一部が資産に振り替わる

在庫として保有する商品(または製品)には、仕入や生産コストが含まれています。本来、「売上原価」となるべきコストですが、未販売分の在庫は資産として残ります。

在庫が増える → 未販売分は資産として計上される → 当期の売上原価が減る → その分、利益が増える

このように、在庫が資産として扱われることで、当期の損益計算書上の売上原価が抑えられ、結果として利益が増加します。

在庫は「資産」として扱われる会計のルール

会計では「費用収益対応の原則」に基づき、”ある期間の収益と、その収益を得るために発生した費用(売上原価)を、同じ会計期間に結びつけて計上する”というルールがあります。つまり、商品が販売されたときに初めて、その商品にかかった原価を費用として計上すべきという考え方です。この原則により、未販売の在庫は資産として扱われます。

会計上の仕組み:売上原価における期末在庫の位置づけ

損益計算書おいて、在庫は売上原価に大きく影響します。この仕組みを理解するには、売上原価の計算式を理解することが有効です。

売上原価 = 期首在庫 + 期中仕入(または製造原価) - 期末在庫

ここで重要なのは、「期末在庫」が売上原価を減少させる項目であることです。期末に商品や資材が在庫として残っていれば、それはまだ販売されていないため、費用化されず、売上原価の中から差し引かれます。

※期末に残った在庫分は、翌期に持ち越されます。

つまり、実態として利益が増えたわけではなく、あくまで費用計上を先送りしているに過ぎません。そのため、同じ仕入金額でも、

  • 期末在庫が大きい → 売上原価が小さい → 利益が大きい
  • 期末在庫が小さい → 売上原価が大きい → 利益が小さい

という構造が生じます。同じ売上高であっても、期末在庫の量によって損益計算書上の利益額が変わります。これが、在庫が利益に影響する仕組みの本質です。

具体例で理解する

期末在庫が増加すると、売上原価は小さくなります。具体的な数値で確認してみましょう。

ケースA:期末在庫が少ない場合

売上高:1,000万円

期首在庫:100万円

仕入高:600万円

期末在庫:100万円

売上原価 = 100 + 600 - 100 = 600万円

売上総利益 = 1,000 - 600 = 400万円


ケースB:期末在庫が多い場合

売上高:1,000万円

期首在庫:100万円

仕入高:600万円

期末在庫:200万円

売上原価 = 100 + 600 - 200 = 500万円

売上総利益 = 1,000 - 500 = 500万円


このように、期末在庫が100万円増えただけで、売上原価は100万円減り、売上総利益が100万円増加します。同じ売上高、同じ仕入高であっても、期末在庫の金額によって利益が変わります。

利益が増えても現金は増えない-会計と実態の乖離

在庫が増えれば帳簿上の利益は増えますが、手元の現金は増えません。むしろ、仕入や生産のために現金はすでに支払われているためキャッシュフローは悪化している可能性もあります。この"利益と現金のズレ"は、在庫増加が引き起こす典型的な問題です。経営者が利益だけを見て判断すると、次のような誤解につながります。

  • 「利益が出ているのにキャッシュフローが厳しい…」
  • 「売上は伸びていないのに利益だけ上がっている…」
  • 「黒字なのに手元資金が減っている…」

これは会計上の処理と実際のキャッシュフローが一致しないために起こります。

【帳簿上】

在庫が増えた → 売上原価が減る → 利益が増える

【実態】

在庫が増えた → 仕入により現金が出ていく → キャッシュフローが苦しくなる

利益が増えている = 経営が好調とは限らない

在庫として保有している資産が流動的ではない(現金化されない)ため、健全な成長とは言えません。利益と現金のズレが大きくなると、帳簿上は黒字でも資金繰りに行き詰まるため「黒字倒産」のリスクが高まります。

帳簿上の利益だけでなく、キャッシュフローに注意を向けることが重要です。

過剰在庫によるデメリット

在庫は一時的に利益を増加させる効果をもたらしますが、過剰に蓄積されると、さまざまなリスクが生じます。在庫を単なる「資産」として扱うのではなく、動かしてこそ意味のある「流動資産」として捉える視点が求められます。

デメリット① 商品の劣化・流行の変化による値崩れリスク

過剰在庫によって生じる代表的なリスクが「商品価値の低下」です。アパレルや食品、化粧品、家電などは、流行の変化や品質の劣化により、保有しているだけで価値が減少します。流行遅れの商品や使用期限が近い商品は値下げの対象となるため、本来得られるはずだった利益を大きく押し下げることになります。

デメリット② 保管・管理・廃棄にかかるコストの増加

在庫は保有しているだけでコストがかかります。倉庫スペース、保管資材、温度・湿度管理のための光熱費だけでなく、在庫が増えれば棚卸作業や仕分け・移動などのオペレーションコストも増加します。また、廃棄する場合はコストが発生するだけでなく、税務上も除却損として処理する必要があります。

デメリット③ キャッシュフローの悪化

在庫が増えるほど資金の支出が増えます。しかし売上として回収されるまで資金は戻りません。そのため、帳簿上は利益が増えていても、手元の資金は不足するという矛盾した状況が生まれやすくなります。この結果、運転資金の不足や借入の増加を招き、企業の財務体質を徐々に弱める原因となります。

適正な在庫管理を実現するために

定期的な棚卸の実施と正確な在庫把握

在庫管理において最も重要なのは、自社の在庫を正しく把握することです。実際の在庫数が帳簿上の在庫数(理論在庫)と合致していなければ、在庫の評価や売上原価の算出に誤りが生じ、正確な経営判断を行うことができません。

そのため、定期的に棚卸を実施して、理論在庫と実在庫との差異を確認・修正する必要があります。

ズレが生まれる主な原因

  • 入出荷時の記録ミスや記録忘れ
  • 商品移動やロケーション変更による紛失
  • 返品・破損品の計上漏れ
  • 手書き・表計算ソフトなどアナログ管理による入力ミス

実務でよく使われる棚卸方式

  • 月次棚卸:毎月全体を精査する標準的な方法
  • 週次棚卸:食品・日用品など動きが速い商品に有効
  • 循環棚卸:品目を分散して実施して、日常的に在庫精度を維持

棚卸を実施することで、在庫ごとの回転率や滞留在庫の傾向といった重要な経営指標を把握できます。また、不良品や陳腐化商品の早期発見にもつながり、過剰在庫の予防にも役立ちます。特に中小企業では、手作業によるミスで在庫の整合性が崩れやすいため、定期的な棚卸の実施が欠かせません。

※棚卸や資産の評価方法について、詳しくは「棚卸の正しい進め方を紹介!精度を上げるための準備・手順・評価方法」をご覧下さい。

在庫管理システムによる在庫水準の維持

適正に在庫数を保つには、棚卸を行うだけでは不十分です。特に多品種・多拠点を扱う企業では、在庫の動きをリアルタイムで把握して、迅速に対応する仕組みが必要となります。そこで有効となるのが、在庫管理システムや(クラウドERPシステム)の導入です。

主な機能

  • 入出庫データの自動反映
  • 発注点の自動計算とリードタイム管理
  • 在庫ごとの販売動向分析
  • 滞留在庫のアラート通知
  • 拠点間在庫の一元管理

これらの機能を活用すれば、在庫数の過不足をリアルタイムで把握でき、欠品や過剰在庫を回避しやすくなります。また、在庫回転率や滞留在庫の分析機能も備えており、経営判断に必要なデータを可視化します。

従来は高額だったシステムも、現在ではクラウド化により中小規模事業者でも導入しやすくなっています。実務負担の軽減と在庫精度の向上を両立させるためにも、こうしたITツールの活用が有効です。

高精度な需要予測の導入

適正在庫を維持するには、需要予測を活用して販売機会の損失や在庫滞留を防ぐことが効果的です。需要予測では、以下のような多様なデータを組み合わせることで、高い精度での予測が可能になります。

需要予測に使う主なデータ

  • 過去の販売実績
  • 天候・季節変動
  • イベント・キャンペーン情報
  • 在庫回転率
  • 販売チャネル別の動向 (EC・店舗など)
  • 市場のトレンド

これらを組み合わせることで、仕入・生産量の予測精度が大幅に高まります。表計算ソフトを活用したシンプルな需要予測から、最近ではAIによる高度な予測も注目されています。AIと在庫管理システムを連携させれば、需要予測に基づいた発注点や安全在庫を自動で最適化できるため、現場の負担を軽減できます。


※需要予測について、詳しくは「需要予測と在庫管理の基本|計算式からExcel活用、実践ノウハウまで徹底解説」の記事をご覧下さい。

まとめ:在庫と利益の本質を理解する


在庫の会計処理によって一時的に帳簿上の利益が増えることは事実です。しかし、この利益は現金の増加を伴わない帳簿上の数字であり、企業の実態を正しく反映しているとは限りません。

以下では、改めて重要なポイントを整理します。


ポイント① 利益と現金は別物


在庫は販売されるまで売上原価として計上されないため、損益計算書上では利益が大きく見えますが、その裏側では資金の支出が増えます。このような利益と現金の乖離が深刻になると、キャシュフローに深刻な影響を与える可能性があります。経営陣は帳簿上の利益だけでなく、実際の資金の流れに注意を向ける必要があります。


ポイント② 財政と損益の両面から判断する


経営判断においては、貸借対照表と損益計算書をセットで読むことが重要です。貸借対照表には期末時点の資産・負債・純資産の全体像が示されています。つまり、貸借対照表を見れば、「在庫などの資産がどのくらい残っているのか」「その水準は適正なのか」といった、損益計算書における収益・費用・利益だけでは分からない財政状態を把握できます。

このように、貸借対照表と損益計算書から企業の状態を読み取り、財政状態資金と経営成績のバランスに基づいた判断が求められます。


ポイント③ 在庫管理は「売るため」であり「増やすため」ではない


会計上、在庫は資産であり、その増減が利益に影響を与えます。しかし実際の経営においては、在庫が過剰になるとキャッシュフローを圧迫し、リスクになる可能性があります。

本来、在庫管理とは「どれだけ持つか」ではなく、「売れる在庫を必要なタイミングで適切に持つこと」です。


会計上の仕組みを理解しつつ、適正在庫を維持して販売機会を逃さず資金効率を高めることが、健全な経営につながります。


過剰在庫の兆候をデータで捉え、早期対応を支援!クラウドERP『キャムマックス』

在庫管理や販売管理もお任せ|クラウドERPキャムマックス

クラウドERP「キャムマックス」は、在庫の動きを定量的に可視化することで、過剰在庫の兆候を早期に捉え、適正在庫の維持を支援します。在庫の全体像をリアルタイムで把握して、データに基づいた適切な判断を実現します。

在庫の偏りを可視化して、過剰在庫リスクを回避

キャムマックスでは、在庫ごとに「回転率」や「回転日数」を一覧で確認できる他、入庫年月をもとに「在庫年齢(滞留期間)」も可視化できます。「どの商品がどれほど長く保有されているのか、どれほどの頻度で在庫が循環しているのか」といった在庫状況を定量的に把握します。これにより、属人化された判断に依存せず、データに基づく過剰在庫の早期対応や、発注・販促の判断が可能になります。

在庫基準に基づく発注最適化

キャムマックスでは、在庫ごとに「上限在庫数」や「下限在庫数」を設定できます。在庫が下限を下回った商品は自動的に抽出されるため、発注が必要な商品を効率的に把握できます。また、上限を超える発注を防ぐことで、過剰な仕入による過剰在庫の発生を抑制します。担当者は勘や経験に頼ることなく、定量的な基準に基づいた発注判断が可能です。これにより、在庫の過不足を防ぎ、最適な在庫バランスの維持を支援します。

AIモデルとの連携で、予測の"実用性"を最大化

ソニーのAI予測分析ツール「Prediction One」との連携により、蓄積された業務データから複雑な変動要因をAIが自動で学習して、予測モデルを構築します。これにより、単なる数式ベースの予測ではなく、実データに基づいた精度の高い予測値を活用できます。

この記事を書いた人

ライター
株式会社キャム 取締役COO

下川 貴一朗

証券会社、外資・内資系コンサルティングファーム、プライベート・エクイティ・ファンドを経て、2020年10月より取締役CFOとして参画。 マーケティング・営業活動強化のため新たにマーケティング部門を設立し、自ら責任者として精力的に活動している。

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