食肉卸向け販売管理システムとは?不定貫・加工・在庫管理まで~業務を最適化する仕組みを解説
食肉卸業は、品質・鮮度管理に加え、重量単価の変動や多様な出荷形態など、一般的な卸売業とは異なる複雑なオペレーションを日常的に抱えています。さらに、食品トレーサビリティの厳格化やデジタル化への要請も高まる中、従来の紙や表計算ソフトでは対応が難しくなっており、業務管理の抜本的な見直しが急務となっています。
本記事では、こうした業務課題への対応から、クラウドERPによる全体最適化まで、わかりやすく解説します。
目次
食肉卸業界における販売・在庫管理の課題
課題① 不定貫商品の重量と単価管理
食肉卸が取り扱う商品は、個体ごとに重量が異なる「不定貫品」が主流です。重量を計測して「単価 × 重量」で金額を算出する必要があり、取引件数が多くなるほど作業負荷も大きくなります。伝票処理では、個数と重量、単価と金額の整合性を常に確認しなければならず、手計算や表計算ソフトでの処理では時間がかかり、ミスも発生しやすくなります。
課題② 名義変更・直送など複雑な商慣習への対応
食肉業界では、実際の物流と所有権の流れが異なる取引形態が多く存在します。例えば、自社の顧客に販売する商品を他社から調達し、所有権(名義)のみを切り替える「名義変更取引」や、自社を経由せずに仕入先から直接届ける「直送取引」などが挙げられます。これらの取引は処理方法が通常とは異なるため、取引形態ごとの管理が難しく、誤処理や記録漏れのリスクが高まります。
課題③ 加工・部位別管理による在庫の分断化
食肉卸の業務では、「仕入 → 加工 → 販売」という中間加工が発生します。一つの原体(枝肉)が複数の部位に分割され、さらに小分け加工されることで、在庫は「原体(枝肉)」「部位(ロース・バラなど)」「小分けパック」と複数の状態に分かれます。それぞれに異なる重量、単価、在庫区分が発生し、管理が複雑化するため、在庫の過不足判断や適切な発注タイミングの見極めも困難になります。
課題④ トレーサビリティ・賞味期限管理の徹底
食肉は生鮮品であると同時に、安全性・衛生面での管理が厳しく求められます。特に「個体識別番号(牛のみ)」「産地情報」「賞味期限」などは、法令や取引先の要求により厳格な管理が求められており、ロット単位で履歴を追える仕組みが不可欠です。また、賞味期限の近いものから優先的に出荷する「期限順先出し(FEFO)」の徹底も重要です。入荷日、加工日、ロット番号、出荷先といった情報を正確に紐付ける必要がありますが、紙伝票や目視確認では管理に手間がかかり、期限切れや出荷漏れのリスクが高まります。
食肉卸向け販売管理システムとは?
- 見積管理:取引先ごとの条件に応じた見積書を作成・管理
- 受発注管理:取引先ごとの受注内容や発注データを正確に処理
- 在庫管理:入出荷に連動した在庫数量の自動更新
- 請求・入金管理:取引先ごとの請求書発行や入金消込を効率化
- 売上・利益管理:日次・月次の売上や粗利を可視化
- 顧客・取引先管理:基本情報や取引条件、取引履歴を一元管理
これら基本機能に加え、食肉卸業特有の商慣習にも対応できるよう設計されているのが大きな特徴です。
業務特性に対応した専用システム
機能分類 | 主な内容 |
不定貫管理 | 重量ベースでの仕入・販売管理。kg単価・重量・金額を自動算出。 |
加工管理 | 部位別に加工指示・実績を記録し、原体との歩留まり計算も可能。 |
在庫管理 | ロット・賞味期限・温度帯別に在庫を管理し、入出荷履歴を記録。 |
出荷・請求管理 | 名義変更・直送など特殊取引に対応。請求形態も柔軟に設定可能。 |
売上・利益管理 | 部位ごとの売上・粗利をリアルタイムで管理 |
食肉卸向けの販売管理システムは、業界特有の業務に対応した専用システムです。部位別の歩留率管理・加工履歴の記録・名義変更・直送・委託在庫といった特殊な商慣習への対応など、汎用システムにはない機能が標準搭載されています。
また、食品表示法や牛トレーサビリティ法といった法令要件にも準拠しており、監査や事故発生時にも迅速に対応できます。以下では、主要機能について詳しく解説します。
主要機能①:不定貫・重量単位の販売管理
食肉卸業界では、重量が異なる不定貫での取引が中心です。そのため、販売・仕入では「kg単価 × 実重量」で金額を算出する必要があり、通常の「数量 × 単価」では処理できません。さらに、出荷形態も得意先ごとに異なり、重量単位で売る場合もあれば、パック単位、本数単位で計算する場合もあり、取引条件によって金額計算のルールが変わります。こうした多様な取引に対応するため、食肉卸向けの販売管理システムでは不定貫・重量管理に特化した機能が組み込まれています。
重量 × 単価の自動計算機能
不定貫商品の販売では「個数」ではなく「重量」で金額が決まります。枝肉やカット肉は同じ商品名でも重量が異なるため、伝票ごとに正確な計算が必要になります。食肉卸向けの販売管理システムでは、こうした不定貫取引に対応した自動計算機能が搭載されています。
- kgグラム単価 × 重量による売上・仕入金額の自動計算
- パック単位、個体単位、枝肉単位など、多様な単位設定に対応
- 計量器との連携による重量データの自動取り込み
これにより、手計算や表計算ソフトでの入力作業が不要になり、ミスの削減と作業効率が実現します。
販売伝票の赤黒処理・出切精算の自動化
不定貫商品の販売では、出荷時は概算重量で処理を行い、後日、実重量に基づいて精算する「出切精算」が必要になるケースがあります。「赤伝(マイナス伝票)」や「黒伝(プラス伝票)」を発行して帳簿を正す処理が発生します。
食肉卸向けのシステムでは、この出切精算を自動化できます。
- 納品時の概算データと実績重量を突き合わせて差額を自動算出
- 差額分の赤黒伝票を自動作成・反映
- 精算履歴を保存して、請求処理に自動連動
手作業では伝票の差し替えや金額の再計算に時間がかかり、ミスも起きやすくなります。システムにより、出切処理がスムーズに行えることで、営業担当や経理担当の負荷を減らすと同時に、精算漏れや過請求・過少請求といった取引トラブルも防ぐことができます。
主要機能②:在庫・ロット・トレーサビリティ管理
食肉卸業における在庫管理は、ロット・個体識別・温度帯・荷姿・賞味期限といった多角的な情報を統合的に扱う必要があります。また、万が一の異物混入や衛生問題が発生した際には、出荷先と仕入元を追跡できるトレーサビリティ体制が強く求められています。こうした要求に応えるため、食肉卸向けのシステムでは高度な在庫・ロット管理機能が組み込まれています。
ロット・産地・個体識別番号による入出庫管理
食肉は生鮮品であると同時に、安全性や信頼性が強く求められます。そのため、仕入から加工・出荷まで一貫して、以下のような情報を紐付けて管理する必要があります。
- ロット番号(仕入先・加工日・処理ロットなど)
- 産地情報(都道府県、農場名など)
- 個体識別番号(牛トレーサビリティ法に基づく)
食肉卸向けの販売管理システムでは、こうした識別情報を入出庫データや加工履歴と照合できる機能が搭載されています。リコール発生時にも「出荷済み分」を即座に把握でき、行政への報告や取引先への連絡も速やかに行えます。トレーサビリティが確保されることで、被害の拡大防止と信頼の維持につながります。
温度帯・荷姿・倉庫別の在庫管理
食肉製品は冷蔵・冷凍など温度帯ごとに保管条件が異なり、荷姿もバラ、パック、ケースなど多様です。また、保管拠点も自社倉庫だけでなく外部冷蔵庫(委託倉庫)など複数に分かれていることも少なくありません。
こうした複雑な在庫構造を正確に把握するため、システムには以下のような管理機能が搭載されています。
- 温度帯管理:同一商品でも「冷蔵 / 冷凍」ごとに在庫を区別
- 荷姿別管理:部位ごと、加工状態ごとに在庫を分類
- 倉庫・ロケーション管理:本社・外部冷蔵庫(3PL)など拠点別に在庫を把握
在庫の所在や状態を一元的に管理することで、誤出荷やロスの防止、欠品や過剰在庫のリスク軽減にもつながります。倉庫ごとに個別確認する手間も省け、出荷判断もスムーズになります。
賞味期限アラートと期限順先出し
食肉は賞味期限が比較的短く、期限切れによる廃棄リスクを最小限に抑える管理が必須です。得意先によっては賞味期限残日数の基準が細かく設定されており、期限が早いものから出荷する「期限順先出し(FEFO)」の徹底が強く求められます。そのため、食肉卸向けの在庫管理システムでは、期限管理ができる下記のような機能が搭載されています。
- ロットごとに賞味期限の自動アラート通知
- 出荷時に期限が近い順から引き当てる期限順先出し(FEFO)機能
- 棚卸時に期限切れ在庫の抽出
これにより、賞味期限切れが発生する前にリスクを察知して、ロスの削減と品質維持を両立します。また、手作業での期限チェックが不要になることで現場の作業効率も向上し、廃棄コストの削減にもつながります。
主要機能③:加工・歩留まり・原価管理
食肉卸業では、枝肉から部位へ、さらに用途別のパック商品へと中間加工を行います。この過程において「歩留まり(加工後に得られる可食部の割合)」や「原価の変動」といった要素が発生します。これらを属人的に管理していると、利益率や在庫精度に大きなズレが生じかねません。食肉卸向けの販売管理システムでは、こうした問題を防ぐため、加工・歩留・原価を定量的に記録・集計して、可視化する機能が組み込まれています。
加工部位ごとの実績・原価計上
枝肉を加工する際、複数の部位(ロース、バラ、モモなど)に分かれ、それぞれが異なる販売価格で取引されます。加工された各部位にどれだけの原価が配賦されているかを正確に把握することは、適正な利益管理や価格戦略の策定に欠かせません。食肉卸向けのシステムでは、部位ごとの原価配賦を自動化する機能が搭載されています。
- 枝肉の仕入原価を、部位ごとの単価・重量に基づいて自動按分
- 加工費・人件費・副資材費なども部位別に配賦
これにより、計画的な仕入や加工指示、廃棄を抑えた在庫コントロールが可能になります。さらに、各部位の原価構造が明確になることで、販売価格の見直しや得意先ごとの利収益管理も行えます。
加工工程と荷姿の履歴管理
食肉加工では「枝肉 → 部位 → 小分け(パック・トレーなど)」と段階的に加工が進みます。こうした多段階の加工では、各工程を追跡できる履歴管理が求められます。食肉卸向けのシステムでは、各加工工程の履歴を記録する機能が搭載されています。
- 加工指示ごとの工程管理
- 枝肉・中間部位・最終荷姿の紐付け管理
品質に問題が生じた際にも、加工履歴を遡って追跡できます。これにより、迅速な原因特定と対応が可能になります。また、加工実績の蓄積により、歩留まり率の分析や作業効率の向上にもつながります。
食肉卸業をサポートするクラウドERP『キャムマックス』

食肉卸業では、部位ごとの重量管理、不定貫商品の扱い、温度帯(冷蔵 / 冷凍)ごとの在庫管理、ロット・個体識別・産地管理といった複雑な管理要件が求められます。クラウドERP「キャムマックス」は、在庫管理・販売管理・購買管理・生産管理・財務会計といった基幹業務を一元管理できるシステムです。汎用的な販売管理 / 在庫管理システムではカバーしきれない、食肉卸業特有の複雑な商慣習にも対応し、現場業務を強力にサポートします。
販売管理機能
従来の管理方法では、受注から出荷、請求、入金管理までが分断され、転記作業によるミスや遅延がも発生していました。キャムマックスの販売管理機能では、受注データをもとに在庫引当や出荷処理、納品書や請求書の作成までスムーズに行えます。さらに、金融機関のFBデータを取り込むことで入金消込もスムーズに行えるため、事務処理の負担やヒューマンエラーを大幅に減らし、日々の売上や入金状況をリアルタイムに把握できます。結果としてキャッシュフローの安定化と迅速な経営判断が可能になります。
購買管理機能
従来はFAXや電話、メールで発注を行い、納期回答もバラバラに管理されるため、在庫や販売計画との整合がとれず、欠品や余剰在庫のリスクが高まっていました。キャムマックスの購買管理機能では「データエクスポートマッピング」を活用することで、発注データを取引先のEDIフォーマット(CSVやXMLなど)に変換して、直接送信することが可能です。これにより、仕入先との発注・納期情報をEDIを通じて連携できるため、やり取りの手間を大幅に削減できます。この仕組みにより調達業務のスピードと精度が向上します。需要に応じた数量を適時確保して、欠品やロスを防ぎながら安定した供給を実現します。
※キャムマックスのデータエクスポートマッピングについてはこちら
在庫・倉庫管理機能
部位ごとの重量管理、不定貫商品の在庫管理、ロット・産地・個体識別番号を含む入出庫の履歴管理を標準でサポートします。入荷時にロット番号や賞味期限を登録することで、期限順先出し(FEFO)に基づく出荷をスムーズに行えます。また、倉庫管理システム(WMS)とのAPI・CSV連携にも対応しているため、自社倉庫だけでなく、外部委託倉庫を含めた在庫の一元管理も可能です。複数拠点に在庫が分散していても、各拠点の在庫数と出荷可能数を即座に確認できます。
この記事を書いた人
下川 貴一朗
証券会社、外資・内資系コンサルティングファーム、プライベート・エクイティ・ファンドを経て、2020年10月より取締役CFOとして参画。 マーケティング・営業活動強化のため新たにマーケティング部門を設立し、自ら責任者として精力的に活動している。


